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名古屋地方裁判所 昭和53年(行ウ)13号 判決

一宮市富塚一六七八番地

原告

岩田富三郎

右訴訟代理人弁護士

鍵谷恒夫

同市栄四丁目五番七号

被告

一宮税務署長

小栗徳夫

右被告指定代理人

山野井勇作

右同

木村亘

右同

井奈波秀雄

右同

岡島譲

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、原告の昭和四七年分ないし昭和四九年分の各所得税につき、昭和五一年二月一〇日付でなした各更正処分及び各過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。

2  被告が、昭和五一年二月二日付で原告に対してなした原告の昭和四七年分以降の所得税青色申告の承認取消処分を取り消す。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者双方の主張

(原告の主張)

一  本件各処分の経緯

1 青色申告の承認取消処分に至る経緯

原告は、被告から青色申告書提出の承認(以下「青色申告の承認」という)を受けていたが、被告は、原告に対し、昭和五一年二月二日付で昭和四七年分以降の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件取消処分」という)をなしたので、原告は、昭和五一年三月三一日、被告に対し右処分についての異議申立をなしたが、被告は、同年六月二六日付で右申立を棄却する決定をなしたため、原告は、同年七月一二日、国税不服審判所長に対し審査請求を行つたが、同審判所長は、昭和五三年三月九日付で右請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本は同年四月一五日ごろ原告に送達された。

2 確定申告から審査裁決に至る経緯

(一) 確定申告

原告は、昭和四七年分ないし昭和四九年分(以下「本件係争各年分」という)各所得税について、別紙第一の右係争各年分の各「確定申告」欄記載のとおり、被告に対しそれぞれ確定申告書を提出した。

(二) 更正及び賦課決定処分

被告は、昭和五一年二月一〇日付で原告に対し、別紙第一の本件係争各年分の各「更正及び賦課決定」欄記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という)をなした。

(三) 異議申立及び異議決定

原告は、これを不服として昭和五一年四月八日、被告に対して各異議申立をなしたが、被告は、同年六月二八日付をもつて、いずれも右申立を棄却し、その旨原告に通知した。

(四) 審査請求及び審査裁決

原告は、右各異議決定を不服として、昭和五一年七月一二日、国税不服審判所長に対して審査請求をなしたところ、同審査判所長は、昭和五二年三月九日、右請求を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本は同年四月一五日ごろ原告に送達された。

なお、本件係争各年分の原告の確定申告及び本件更正処分等にかかる各総所得金額、所得控除額、課税所得金額、申告納税額及び過少申告加算税は、別紙二ないし四記載のとおりである。

二  本件各処分の違法性

原告は、所轄税務署長の青色申告の承認を受けて、本件係争各年分の事業所得に関する所定の帳簿書類の備付け、記録、保存をしていたにもかかわらず、被告は、所得税法(以下「法」という)一五〇条一項一号該当を理由に本件取消処分をした。すなわち、被告係官は、昭和五〇年五月ごろ前後六回に亘つて、事前連絡なしに原告方を税務調査と称して訪れた。これに対し、原告は調査理由の明示を要求したがこれに応ぜず、原告の取引先に対し反面調査をなし、本件取消処分をなしたうえ、本件更正処分等をなした。

なお、原告は、被告係官来訪時に昭和四九年分の帳簿を提示し、次回来訪の際その調査結果を知らせて欲しい旨要請したが、同係官はこれに応じなかつた。原告は、本件係争各年度における事業所得の実額を算定しうる帳簿類等を記録、保存していたのであるから、推計課税の必要性はない。

これを要するに本件各処分はいずれも違法であり、取消を免れない。

(被告の主張)

一  原告主張第一項の事実はいずれも認める。

同第二項の事実及び主張は争う。

二  本件取消処分の適法性

1 被告は、原告の本件係争各年分の所得税調査を行う必要があつたので、昭和五〇年四月一六日から同年一一月四日までの間、前後一〇回にわたり被告係官を原告方に赴かせ、実地調査を行わせたが、その際原告は、調査理由の開示を求めたので、被告係官は、「原告の所得税については、暦年調査がなされておらず、確定申告書に記載された事業所得金額について適正に申告されているかどうかを確認するためである」と調査理由を開示したうえ、本件係争各年分に関して、当時青色申告の承認を受けていた原告に対し、法一四八条所定の関係帳簿書類の提示と調査協力を再三、再四求めたが、原告はこれに応ぜず、僅かに昭和四九年分の元帳及び日計表と称する帳簿各一冊を一回提示したのみで、その他の係争各年分の関係帳簿書類の提示を全くなさず調査に協力しなかつた。

2 右調査の概要は、次のとおりである。

昭和五〇年四月一六日

被告係官が原告方を訪れたところ、原告は不在だつたので、原告の妻に、所得税の調査のため訪れたことを告げ原告方を辞した。

昭和五〇年五月一三日

原告が調査理由の開示を求めたので、係官は、前記同様の調査理由を告知し昭和四七年分以降の帳簿書類の提示と調査協力を求めたところ、原告は「具体的に申告のどこがどう違うのか明確にしろ」と述べたので、係官は、原告の帳簿書類を全部みないと申告が正しいかどうか具体的に指摘できないことを説明するとともに再度帳簿書類の提示を要望したところ、原告は調査理由が具体的でないと申し述べ、さらに係官に対して雑言を浴せるなどして、とうてい帳簿書類の提示が期待できる状況ではなかつたので係官は、原告方を辞した。

昭和五〇年九月四日

原告が、調査理由を具体的に開示するよう求めたので、係官は、前記同様調査理由を告知したところ、原告は、「それでは駄目だといつているでしよう。納得できるように説明してくれ」と申し述べたので、係官は、前記理由以上の具体的な告知は、帳簿書類をみないとできない旨説明したが、原告は帳簿書類を提示しなかつた。

そこで、係官は、原告に対し九月一〇日に原告方を訪れるからその際に帳簿書類の提示をしてもらいたい旨要望して原告方を辞した。

昭和五〇年九月一〇日

係官が帳簿書類の提示を再三、再四求めるも原告は、調査理由が具体的でないといつて帳簿書類を提示しなかつた。そこで係官は、原告に対して帳簿書類の提示がない場合は青色申告の承認の取消しもあり得ることを説明し、再び帳簿書類の提示を求めたが原告は、依然として調査理由が納得できないとして帳簿書類の提示をせず、調査にも応じなかつた。

昭和五〇年一〇月二日

原告は、昭和四九年分の元帳と称する帳簿一冊と日計表と称する帳簿一冊を提示したのみでその他昭和四七年分以降の帳簿書類はなんら提示しなかつた。そこで係官は、右元帳の内容を写しとつたが日計表については、時間がなかつたので後日写しとることとし、原告に対し一〇月一四、一五日に訪れるからその際に右日計表及び昭和四七年分以降の帳簿書類並びに棚卸表の提示方を要望して原告方を辞した。

昭和五〇年一〇月一一日

原告から一〇月一四、一五日は、都合が悪いので調査を延期してほしい旨の電話連絡があつたので係官は原告方でのその日の調査を中止することとした。

昭和五〇年一〇月二〇日

係官が、原告に対し昭和四七年分以降の関係帳簿書類及び前記日計表並びに各年末の棚卸表の提示を求めたところ、原告は昭和四九年分の結論がでない以上みせることはできない旨申し述べたので、係官は、原告に対して先日提示があつた昭和四九年分の元帳と称する元帳には、現金勘定が全く記載されていないなどの点を指摘したところ、原告は、「現金出納簿はつけていない。つける必要もないと思つていた」と申し述べた。そこで係官は、再び昭和四七年分以降の帳簿書類などの提示を求めたが原告は、調査理由の告知が具体的でないとして依然として右帳簿書類の提示をしないので、このように帳簿書類の提示がないと青色申告の承認が取り消される場合もあることを告知して原告方を辞した。

昭和五〇年一一月四日

原告は、具体的な調査理由の開示を要求するのみで昭和四七年分以降の帳簿書類の提示はなく、調査に協力が得られなかつた。

3 本件取消処分

前述した経緯から明らかなごとく、原告が昭和四七年分の青色申告にかかる関係帳簿書類を提示しなかつたことについて正当な理由があるとは認められないので、青色申告にかかる帳簿書類の備付け、記録又は保存が法一四八条に定めるところに従つて行われていないことに該当すると認め、同法一五〇条一項一号に基づき原告の青色申告の承認を昭和四七年分に遡り、同年分以降すべて取消すこととし、その旨昭和五一年二月二日付書面をもつて原告に通知した。

従つて、本件取消処分は、もとより正当である。

三  本件更正処分等の適法性

(推計課税の必要性)

前述したとおり被告は、原告に対し、再三に亘り、帳簿書類等の提示を求め、かつ、営業の概況及び事業所得金額の計算根拠等の説示を求めたが、原告は、正当な理由なくこれを拒否した。もつとも、昭和四九年分の元帳と称する帳簿及び日計表を提示したが、これだけでは、昭和四九年分の総所得金額を、被告は把握することができなかつた。

そこで、被告はやむを得ず、被告係官をして可能な限り原告の取引先等について、原告との取引の状況あるいは事業規模等の調査を行つたうえ、推計により原告の本件係争各年分の事業所得金額を算定したのであり、係争各年分における総所得金額は次のとおりである。

(本件係争各年分の総所得金額の内訳)

1  昭和四七年分総所得金額 五〇七万四六一三円

右金額は、原告が申告した不動産所得金額二五万四二〇〇円及び営業所得金額四八二万四一三円を合計した金額であり、右営業所得金額(別紙第五昭和四七年分営業所得金額計算表のとおり)の算定根拠は次のとおりである。

(一) 総収入金額 六〇二六万八八〇六円

右金額は、昭和四七年分における原告の仕入金額四九五七万七一二〇円を同業者の仕入原価率(総収入金額に対する仕入金額の割合)八二・二六パーセントで除して算定した金額である。

(二) 仕入金額 四九五七万七一二〇円

右金額は、被告の調査により実額を把握できた金額であり、その明細は、別紙八仕入金額明細表昭和四七年分記載のとおりである。

(三) 仕入原価率 八二・二六パーセント

右仕入原価率は、一宮税務署管内において原告と同種の事業を営む青色申告の個人事業者で後記(四)に掲げる選定基準に該当する者(以下「同業者」という)の課税事績を基礎に別紙九のとおり算定したものであり、これを昭和四七年分における原告の仕入原価率とみなしたものである。

(四) 選定基準

同業者の選定基準は、一宮税務署管内において家庭電気器具販売業を営む個人事業者で、かつ総仕入金額のうち七割以上一宮ナショナル製品販売株式会社(以下「一宮ナショナル」という)から商品仕入を行つている者のうち、昭和四七年分ないし昭和四九年分の所得税の確定申告について青色申告書を提出した者で、次の(1)ないし(3)に該当するものである。

(1) 暦年上記事業を継続している者。ただし次の各号に該当する者は除く。

イ 年の中途において開廃業、転業又は業態を変更した者、あるいは他の業種目を兼業している者。

ロ 小規模事業者で帳簿組織が簡易な記帳の方法(現金主義)によつている者及び期間損益が明確にされていない者。

ハ 更正または決定処分が行われたもののうち国税通則法の規定に基づく不服申立期間及び出訴期間を経過していない者並びに、不服申立または訴訟中の者。

(2) 年間の仕入金額が次の各号に該当する者

イ 昭和四七年分については、二五〇〇万円以上九九〇〇万円以下の者であること。

ロ 昭和四八年分については、三〇〇〇万円以上一億二五〇〇万円以下の者であること。

ハ 昭和四九年分については、二三〇〇万円以上九二〇〇万円以下の者であること。

(3) 従事員の数が次の各号に該当する者であること。

イ 昭和四七年分及び昭和四八年分については、二人以上八人以下の者であること。

ロ 昭和四九年分については、二・五人以上一〇人以下の者であること。

(五) 算出所得率 一二・六三パーセント

右算出所得率とは、総収入金額に対する算出所得金額(総収入金額から仕入原価及び一般経費を控除した金額。以下同じ)の割合をいい、前記(四)による同業者を基に別紙九のとおり算出したものであり、これを昭和四七年分における原告の算出所得率とみなしたものである。

(六) 算出所得金額 七六一万一九五〇円

右金額は、昭和四七年分における総収入金額六〇二六万八八〇六円に右算出所得率一二・六三パーセントを乗じて算定したものである。

(七) 特別経費 二七九万一五三七円

右金額の内訳は、次のとおりである。

(1) 雇人費 二二一万五五五〇円

右金額は、原告が昭和四七年中に次の者に支払つた給料の合計金額である。

佐分義忠 一一四万一四五〇円

有額和美 一〇七万四一〇〇円

合計 二二一万五五五〇円

(2) 支払利子 三二万一四七七円

右金額は、原告が昭和四七年中に次の金融機関から事業資金として借入れた借入金に対する支払利子の合計金額である。

国民金融公庫一宮支店 一万九六五六円

尾張農業協同組合 二九万二八八八円

一宮信用金庫浅井支店 八九三三円

合計 三二万一四七七円

(3) 建物減価償却費 二五万四五一〇円

原告が事業の用に供していた建物は、別紙一二のとおりであり、原告は減価償却資産の償却費の額の計算上選定することができる償却の方法として定率法を被告に届出ているので、別紙一二の各資産の取得価額を基に法四九条及び所得税法施行令一二〇条ないし一三六条並びに減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号)一条一項一号、四条一項等によつて減価償却費を算定すると別紙一二中昭和四七年分合計欄のとおりとなる。

(八) 営業所得金額 四八二万四一三円

2  昭和四八年分総所得金額 六七九万三三八六円

右金額は原告が申告した不動産所得の金額二五万四二〇〇円と以下に述べる営業所得金額六五三万九一八六円を合計した金額である。

原告の昭和四八年分の営業所得金額は、別紙六昭和四八年分営業所得金額計算表のとおり六五三万九一八六円となり、その算定根拠は次のとおりである。

(一) 総収入金額 七二七四万八七九五円

右金額は、昭和四八年分における原告の仕入金額六二八六万九五〇九円を同業者の仕入原価率八六・四二パーセントで除して算定した金額である。

(二) 仕入金額 六二八六万九五〇九円

右金額は、被告が調査により実額を把握した金額であり、その明細は、別紙八仕入金額明細表昭和四八年分記載のとおりである。

(三) 仕入原価率 八六・四二パーセント

右仕入原価率は、昭和四七年分と同様の方法により別紙一〇のとおり算出したものでこれを昭和四八年分における原告の仕入原価率とみなしたものである。

(四) 選定基準

前記1の(四)の選定基準と同様である。

(五) 算出所得率 一三・五〇パーセント

右算出所得率は前記1の(四)で述べた同業者を基に別紙一〇のとおり算定したものであり、これを昭和四八年分における原告の算出所得率とみなしたものである。

(六) 算出所得金額 九八二万一〇八七円

右金額は、昭和四八年分における総収入金額七二七四万八七九五円に右算出所得率一三・五〇パーセントを乗じて算定したものである。

(七) 特別経費 三二八万九〇一円

右金額の内訳は次のとおりである。

(1) 雇人費 二六九万一八〇〇円

右金額は、原告が昭和四八年中に次の者に支払つた給料の合計金額である。

佐分義忠 一三九万一八〇〇円

有賀和美 一三〇万円

合計 二六九万一八〇〇円

(2) 支払利子 三五万九一八〇円

右金額は、原告が昭和四八年中に次の金融機関から事業資金として借入れた借入金に対する支払利子の合計金額である。

国民金融公庫一宮支店 一〇万九四九五円

尾張農業協同組合 二四万九六八五円

合計 三五万九一八〇円

(3) 建物減価償却費 二三万九二一円

右金額は、前記1の(七)の(3)と同様に計算したものでありその明細は別紙一二中昭和四八年分合計欄のとおりである。

(八) 営業所得金額 六五三万九一八六円

3  昭和四九年分総所得金額 四九九万八六二九円

右金額は、原告が申告した農業所得の金額二万八三五〇円、不動産所得の金額三六万三二〇〇円と以下に述べる営業所得の金額四六〇万七〇七九円を合計した金額である。

原告の昭和四九年分の営業所得金額は、別紙七昭和四九年分営業所得金額計算表のとおり、四六〇万七〇七九円となりその算定根拠は次のとおりである。

(一) 総収入金額 五八〇六万七四一一円

右金額は、昭和四九年分における原告の仕入金額四五九六万三五六円を同業者の仕入原価率七九・一五パーセントで除して算定した金額である。

(二) 仕入金額 四五九六万三五六円

右金額は、被告が調査により実額を把握した金額であり、その明細は別紙八仕入金額明細表昭和四九年分記載のとおりである。

(三) 仕入原価率 七九・一五パーセント

右仕入原価率は、昭和四七年分と同様の方法により別紙一一のとおり算出したものでありこれを昭和四九年分における原告の仕入原価率とみなしたものである。

(四) 選定基準

前記1の(四)の選定基準と同様である。

(五) 算出所得率 一五・一七パーセント

右算出所得率は、前記1の(四)で述べた同業者を基に別紙一一のとおり算出したものであり、これを昭和四九年分における原告の算出所得率とみなしたものである。

(六) 算出所得金額 八八〇万八八二六円

右金額は、昭和四九年における総収入金額五八〇六万七四一一円に右算出所得率一五・一七パーセントを乗じて算定したものである。

(七) 特別経費 四二〇万一七四七円

右金額の内訳は、次のとおりである。

(1) 雇人費 三六一万八二〇〇円

右金額は、原告が昭和四九年中に次の者に支払つた給料の合計金額である。

佐分義忠 一五九万二二〇〇円

佐分尚子 五〇万円

有賀和美 一五二万六〇〇〇円

合計 三六一万八二〇〇円

(2) 支払利子 三七万四〇〇八円

右金額は、原告が昭和四九年中に次の金融機関から事業資金として借入れた借入金に対する支払利子の合計金額である。

国民金融公庫一宮支店 一四万二三〇二円

尾張農業協同組合 二三万一七〇六円

合計 三七万四〇〇八円

(3) 建物減価償却費 二〇万九五三九円

右金額は、前記1の(七)の(3)と同様に計算したものであり、その明細は別紙一二中昭和四九年分合計欄記載のとおりである。

(八) 営業所得金額 四六〇万七〇七九円

(結論)

以上のとおり、原告の昭和四七年分総所得金額は五〇七万四六一三円、昭和四八年分総所得金額は六七九万三三八六円、

昭和四九年分総所得金額は四九九万八六二九円であり、右金額の範囲内でなされた本件各更正処分及び右各更正処分を基になされた過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(被告の主張に対する原告の再主張)

一  被告主張第二項の事実中被告係官が被告主張の日時ごろ前後六回にわたり、原告方に税務調査に来たこと、その際原告は、右係官に対し、調査理由の開示を求めたこと、原告は、昭和四九年分の元帳及び日記帳と称する帳簿を一回提示したのみで、その余の帳簿類を一切提示せず、税務調査に協力しなかつたこと、以上の事実は認めるが、その余の事実及び主張は争う。

法は納税者による申告納税制度を採用しているのであるから、税務署職員の質問検査においては、納税者に対し、右調査の必要性をできるだけ具体的に説明し、また調査範囲も、具体的に特定して開示されなければならないところ、本件における被告係官のそれは一般的・概括的なものにすぎず、到底適法な質問検査といえず違法である。

そこで、原告は、右調査に協力せず、関係諸帳簿を提示しなかつたのであり、原告の右所為には正当な理由があり、かつ、原告は、係争各年度における法一四八条一項所定の関係諸帳簿を現実に記録保存していたのであるから、本件取消処分は違法である。

二  同第三項については次のとおり主張する。

1 (推計課税の必要性)については、原告が被告係官に対し、昭和四九年分の元帳、日記帳を一回提示したことは、認めるが、その余は争う。

2 (本件係争各年分の総所得金額の内訳-別紙五ないし八-について)

本件係争各年分の総所得金額はいずれも否認する。但し、右別紙二ないし四記載の不動産所得金額、農業所得金額、所得控除額は認める。係争各年分の営業所得金額は、右各別紙中確定申告額欄記載のとおりである。

(一) 係争各年分の営業所得の総収入金額は否認、実額は前記のとおりである。

(二) 仕入金額について、名古屋ナショナル特機株式会社からの昭和四八年分及び昭和四九年分各仕入金額並びに前田電機株式会社からの昭和四九年分仕入金額が被告主張の額であることは認めるが、その余については否認する。

原告の係争各年分の仕入金額の実額は別紙一三(原告主張仕入金額明細表)のとおりである。

被告主張の仕入金額のうち一宮ナショナル及び西愛知ナショナル住宅設備機器株式会社(以下「西愛知ナショナル」という)からの仕入金額には、いずれも外注費(一宮ナショナルのテレビアンテナ工事費及び西愛知ナショナルのエアコン取付工事費)が含まれ、その分だけ仕入金額が大きくなり、その結果被告の推計方法で計算すると原告の総収入金額が実際より大きくなり、不当である。

(三) 仕入原価率、選定基準及び算出所得率についてはいずれも不知である。

(四) 算出所得金額はいずれも争う。

(五) 特別経費

(1) 雇人費について

昭和四九年分は、被告主張の額であること、昭和四七年及び昭和四八年分については、いずれも原告が被告主張の金額(別紙五、六雇人費欄記載の二二一万五五五〇円及び二六九万一八〇〇円)を佐分義忠及び有賀和美に給料として支払つたことは認めるが、右両年分については、別紙一四原告主張雇人費明細表記載のとおり、その他の者にも給料を支払つており、その額が雇人費の経費として計上されるべきところ、被告はこれを計上していないので、昭和四七年分及び昭和四八年分については否認する。

(2) 支払利子について、原告が本件係争各年分に尾張農業協同組合及び国民金融公庫一宮支店に対し各支払つた利子の額が被告主張のとおりであることは認めるが、一宮信用金庫浅井支店分は否認する。尚原告は、別紙一五原告の支払利子明細表記載のとおり本件係争各年分において支払つた支払利子があるのでこれについても特別経費として控除されるべきである。

(3) 建物減価償却費について

原告が事業の用に供していた建物についての減価償却費が被告主張の額であることは認める。

3 被告の本件更正処分等は、前記一で指摘したとおり違法な質問検査を前提し、かつ、仕入金額、特別経費等の実額把握に誤りがある上、推計によるものであるから、当然に違法である。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第一六号証、第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証の一ないし一四、第二〇ないし第二二号証を提出。

2  乙第一三ないし第一八号証の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

3  証人藤嶋英治、同佐分尚子の各証言及び原告本人尋問の結果を各援用。

なお、甲第二〇号証の作成時期に関する被告の主張は認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし四、第三ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第二〇号証を提出。

2  甲号各証の成立はいずれも不知。但し、甲第二一号証の出金伝票三〇枚は、その作成日付毎にその都度作成されたものでなく、後日一時期に一括して作成されたものである。

3  証人竹中昭博、同山口日出次の各証言を援用。

理由

一  本件取消処分及び本件更正処分等に至る経緯は、すべて原告主張第一項のとおりであることについては、当事者に争いがない。

二  本件取消処分の適否について。

1  被告係官が、昭和五〇年四月一六日から同年一一月四日までの間、前後数回にわたり税務調査のため原告方を訪問したこと、その際原告は右係官に対し、調査理由の開示を求め、昭和四九年分の元帳及び日計帳と称する帳簿を一回提示したのみで、その余の関係帳簿類を一切提示せず、税務調査に協力しなかつたこと、以上の事実は、当事者間に争いがない。

2  つぎに、証人竹中昭博の証言及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

被告係官が原告方を税務調査のため、訪問した理由は、従前、原告の所得税につきいわゆる暦年調査がなされていないこともあり、原告の本件係争各年分の所得税に関し、原告より提出された確定申告書の記載内容が法一四八条一項、同法施行規則五六条ないし六四条により青色申告者に対し備付け、記録、保存が義務付けられている帳簿等に基づき適正に申告されているか否かにつき、被告において確認するためであつたこと、原告からなされた税務調査の理由開示要求に対し、被告係官は、右と同旨の理由を述べたこと、被告係官は、原告方を訪れた最初の二回は原告不在のため原告と面会できず、家人に税務調査のため来訪した旨告げ、二回目のときには原告の都合の良い日時を連絡して欲しい旨家人に伝言し、原告方を去つたこと、その後原告からの連絡により、昭和五〇年五月一三日に原告方を訪れ、原告と面接し、前記と同旨の税務調査の理由を原告に告げ法一四八条一項、同法施行規則五六条ないし六四条所定の帳簿書類の提示及び税務調査への協力方を求めたが、原告は被告係官の右程度の説明では税務調査の理由、必要性の開示としては不十分であるとして、協力方を拒否したので、同係官において、原告の本件係争各年分に関する帳簿書類を全て見ない限り、原告の申告が適正であるか否か具体的に指摘することは不可能である旨述べ、重ねて、原告に対し、帳簿書類の提示を求めたが、原告は右係官の説明に納得せず、帳簿書類の提示をなさなかつた。その後同年九月一〇日ごろ被告係官は再び原告方を訪れ、本件係争各年分の帳簿書類の提示を求めたが、原告はこれに応じないため、右各書類の掲示ない場合には原告に対する青色申告の承認の取消し処分があり得る旨説明したけれども、原告は態度を変えなかつた。その後同年一〇月二日ごろ被告係官が原告方に訪問した際、原告は前記昭和四九年分の元帳及び日計表と称する各帳簿各一冊を同係官に提示するに至つたが、その他の本件係争各年分の帳簿書類は一切提示しなかつた。しかも、右提示に係る元帳には現金勘定の記載はなく、売上勘定については、毎月の合計額のみ記載され、取引先の名称も略号が記載されており、正確な内容を把握できなかつた。そして、原告は、右元帳及び日計表の提示を短時間に限定したので、被告係官は右元帳を写し取ることができたに止まり、右日計表については筆写は勿論のこと精査することも不可能であつた。これに加えて、原告は右各帳簿の記載内容について何ら説明をしなかつた。そのため被告係官は、同月二〇日に再度原告方を訪れ、前記日計表及び本件係争各年分の帳簿書類及び棚卸表等の提示を求めたところ、原告はこれを拒否し、被告係官から前記元帳に現金勘定が無記載である旨指摘されるや、現金出納簿は記帳していない旨述べ、依然として本件係争各年分の帳簿の提示を一切拒否し続けたため、ここにおいて被告係官は、帳簿書類等の提示なければ青色申告の承認が取り消される場合もあり得、しかも所得金額については推計課税を行う可能性がある旨告知したこと、そして同年一一月四日ごろ、被告係官は、原告に対し本件係争各年分の帳簿書類の提示及び税務調査への協力方を要請したが、原告がこれを拒否したので、被告係官は、これまでの経緯に照らし原告からの右各書類の提示及び協力方は不可能であると判断し、原告方への臨場調査を打切つた。

以上の事実が認められ、右認定の趣旨に反する原告本人尋問の結果部分はたやすく信用し難く、他に右認定を動かすに足る証拠はない。

3  そこで考えるに、法は、「帳簿書類の備付け、記録又は保存が一四八条一項に規定する大蔵省令で定めるところに従つて行われていないこと」を青色承認申請の却下事由とすると共に、青色申告の取消事由ともしているが(一四五条一号、一五〇条一項一号)、これは当該納税者の帳簿書類について税務署長が法二三四条の規定に基づく調査をなし得ることを前提とし、その調査により、帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることを確認できた場合にのみ、青色承認による特典を与えるとの趣旨に出たものであり、青色申告者が、右帳簿書類の調査にいわれなく応じないため、その備付け、記録及び保存が正しく行われていることを税務署長において確認することができないときは、法一五〇条一項一号の定める青色承認取消事由に該当すると解するのが相当である。

そして、法二三四条一項所定の税務職員の質問検査権行使による税務調査の範囲、程度及び手段等については、これを規制する法文は存しないから、すべて税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解される。

従つて、税務調査実施にあたり、事前通知ないし、調査の理由開示等は、その適法要件とは言えない。これを本件についてみるに、先に認定した、被告係官の原告に対する税務調査のための帳簿提示要求、ないし、提示された帳簿に対する説明要求は、すべて被告係官の有する質問検査権の合理的裁量の範囲内のものと認められ、原告のこれら要求に応じなかつた所為は、正当な理由に基づくものとは到底認められない。

そして、被告係官は、正当な理由のない原告の帳簿書類提示拒否のため、原告保存にかかる帳簿が法一四八条一項所定の帳簿書類としての適格性を有しているか否かを判断できなかつたというのであるから、被告が、法一五〇条一項一号該当を理由に、本件取消処分をなしたのは、当然のことであつて、何ら違法ではないことは多言を要しないというべきである。

以上の説示に反する原告の主張は採用できない。

三  本件更正処分等の適否について。

1  推計課税の必要性について

先に認定したとおり、原告は、被告係官による税務調査に対し、昭和四九年分の元帳及び日計表と称する各帳簿各一冊を提示したのみでそれ以外の帳簿書類の提示を一切拒否し、右提示にかかる帳簿中元帳は一見して極めて不備な帳簿であり、日計表は係官において殆んどその内容を確知できない程度の短時間の提示であつたのであるから、被告が、本件係争各年分の営業所得金額の算定について推計課税の方法によつたことは相当というべきである。

なお、原告が、本訴において実額把握の資料たりうるものとして提出した書証(甲第一ないし第一五号証、第一九号証の一ないし一四、第二一号証等)は、後記認定のとおり、実額を把握するに足る帳簿書類としての信憑性に欠けているから、これら甲号各証の存在は、推計課税の必要性を左右するに足りる資料とはなし難い。

2  推計課税の合理性について

(一)  仕入金額について

成立に争いのない乙第三ないし第八号証によれば、被告は、原告の仕入先に対し、文書により仕入金額の照会をしたが、その結果原告の本件係争各年分の仕入実額の明細は、別紙八仕入金額明細表記載のとおりであること(但し、名古屋ナショナル特機株式会社の昭和四八年分及び昭和四九年分並びに前田電機株式会社の昭和四九年分各仕入金額について当事者間に争いがない)、右各年分の仕入金額の合計金額は、被告主張のとおりであることが認められる。

なお、原告は、一宮ナショナル及び西愛知ナショナルからの仕入金額には、いずれも外注費(一宮ナショナルのテレビアンテナ工事費及び西愛知ナショナルのエアコン取付工事費)が含まれているが、右外注費を仕入金額に算入して推計課税することは不合理である旨主張するけれども、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一三、第一四号証によれば、原告の本件係争各年分の仕入原価率、算出所得率等を推計計算するため被告において選定した同業者(後記に詳述)はすべて、右外注費を前記二社に対する仕入金額に含めていることが認められるから、原告の前記二社に対する仕入金額として被告の認定した額の中に外注費が含まれていたとしても、これは当然のことに属し、右仕入金額を基礎として推計課税することに不合理性はない。

なお、原告は、本件係争各年分の仕入金額は、別紙一三のとおりであると主張し、その裏付資料として甲第一ないし第九号証を提出しているが、証人藤嶋英治の証言によれば、これら甲号各証は、訴外藤嶋が、原告の売上伝票の中から適宜抽出して書き出したもので原始帳簿ではないこと、作成日時もはつきりしないこと(本訴提起後ではないかと思われる)、以上の事実が認められ、右事実に売上伝票それ自体は本訴に書証として提出されていないこと及び弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一五ないし第一八号証(一宮ナショナルないし西愛知ナショナルが保存している売上伝票の写等)と対比すると甲第一ないし第九号証記載の数字にこれら書証と符合しない箇所が一七箇所以上存することが認められること等を考え併せると、右甲第一ないし第九号証は裏付け資料としての信用性に欠けるものというべく、他に原告の主張を維持するに足りる証拠は存しない。

(二)  総収入金額、仕入原価率、同業者選定基準、算出所得率及び算出所得金額について

(1) 成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一ないし三によれば、名古屋国税局長は、一宮税務署長(被告)に対し、「税務訴訟に関する資料の報告方について(一般通達)」と題する通達文書をもつて、本訴において被告の主張する選定基準と同一基準の者を対象者とする課税事績について報告を求め、同税務署長は、大蔵事務官作成の「家庭電気器具販売業者の課税事績表」と題する書面を添付し文書を以つて右に対し報告をなしたこと、右事績表の係争各年分の各納税者名(但し匿名)・収入金額・仕入金額・収入金額から売上及び一般経費を控除した金額は、別紙九ないし一一係争各年分の仕入原価率及び算出所得率表記載の各納税者名(但し匿名)・総収入金額・仕入金額・算出所得金額と同一であること、そして各納税者毎の仕入金額を総収入金額で除した割合即ち仕入原価率及び算出所得金額を総収入金額で除した割合即ち算出所得率は右別表記載の各納税者毎の仕入原価率及び算出所得率欄記載のとおりとなり、係争各年毎の納税者の平均仕入原価率及び算出所得率はそれぞれ、昭和四七年分は八二・二六パーセント、一二・六三パーセント、昭和四八年分は八六・四二パーセント、一三・五〇パーセント、昭和四九年分は七九・一五パーセント、一五・一七パーセントであることが認められる。

(2) 前記認定のとおり原告の仕入金額は、昭和四七年分については四九五七万七一二〇円、昭和四八年分については六二八六万九五〇九円、昭和四九年分については四五九六万三五六円であり、一宮ナショナルからの仕入金額及び右の総仕入金額に占める割合は、昭和四七年分については、四四〇六万四二一四円、約八八・九パーセント、昭和四八年分については、五二一五万九一三八円、約八三パーセント、昭和四九年分については、三五二四万二六六七円、約七六・七パーセントである。また従事員の数も、後記雇人費の項で説示するとおり、昭和四七年分及び昭和四八年分はいずれも二名、昭和四九年分は三名である。

(3) 右認定の事実によれば、被告が本訴において主張する一宮税務署管内において原告と同種の事業を営む青色申告の個人事業者で選定基準の対象となつた同業者と原告との事業は、仕入金額、同一仕入先からの仕入金額の総仕入金額に占める割合、従事員数等事業の規模等において相当程度類似しているということができ、被告の選定基準は合理性があるというべく、このような選定基準に基づき選定された対象者(同業者)の平均仕入原価率及び平均算出所得率を基礎にして原告の総収入金額及び算出所得金額を推計することは合理的であるというべきである。

(4) そこで、本件係争各年分の前記認定にかかる各仕入金額を平均仕入原価率である昭和四七年分八二・二六パーセント、昭和四八年分八六・四二パーセント、昭和四九年分七九・一五パーセントで除すると、原告の本件係争各年分の各総収入金額は、昭和四七年分六〇二六万八八〇六円、昭和四八年分七二七四万八七九五円、昭和四九年分五八〇六万七四一一円となり、また、本件係争各年分の右各総収入金額に平均算出所得率である昭和四七年分一二・六三パーセント、昭和四八年分一三・五〇パーセント、昭和四九年分一五・一七パーセントをそれぞれ乗ずると、原告の本件係争各年分の各算出所得金額は、昭和四七年分七六一万一九五〇円、昭和四八年分九八二万一〇八七円、昭和四九年分八八〇万八八二六円となることは計数上明らかである。

(三)  特別経費

(1) 雇人費について

原告が昭和四七年分として佐分義忠及び有賀和美に支払つた給料の合計額が二二一万五五五〇円、昭和四八年分として右両名に支払つた給料の合計額が二六九万一八〇〇円、昭和四九年分の雇人費合計額は、右両名及び佐分尚子に支払つた給料の合計額三六一万八二〇〇円であることについては当事者間に争いがない。

ところで、原告は、昭和四七年分及び昭和四八年分の雇人費は、右金額のみでなく、別紙一四原告主張雇人費明細表記載のとおりであると主張するけれども、右主張にそう甲第一〇号証ないし第一五号証は、これを裏付けるに足りる的確な証拠がないのみならず、これら甲号各証は、証人藤嶋英治、同佐分尚子の各証言及び原告本人尋問の結果によれば原告の所属する一宮民主商工会の事務局員が原告の依頼により原告作成の出金伝票(甲第二一号証)に基づき同事務局員が作成した源泉徴収簿(甲第一九号証の一ないし一四)により作成したものであること、これら甲号各証の作成名義人は、本訴提起後である昭和五四年一一月一〇日ないし一一日に民商事務局員の言うままに、源泉徴収票写等の裏付け資料を確認することなく(これら写が発行されていた形跡は存しない)、署名押印したものであることが認められ、加えて、前記出金伝票(甲第二一号証)は、出金の都度作成されたものでなく、後日一時期に一括して作成されたものであることは原告の自認するところであるから、右出金伝票の信憑性は極めて疑わしく、従つて、源泉徴収簿の内容も、正確性に欠けることは多言を要しない。

他方、給与支払者は給与の支払を受けている者の住所所在の市町村長宛に給与支払報告書を提出する義務がある(地方税法三一七条の六第一項)ところ、成立に争いのない乙第九号証の一ないし三、証人山口日出次の証言によれば、原告は、本件係争各年分雇人費中被告の否認している雇人費について、給与支払報告書を一切提出していないことが認められる。

してみると、被告の認める雇人費以外の原告主張の雇人費については、これを認めるに足りる的確な証拠は存しないことになるから、原告の右主張はもとより採用の限りではない。

(2) 支払利子について

本件係争各年分に原告が尾張農業協同組合、国民金融公庫一宮支店に支払つた支払利子の合計額が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一二号証によれば、原告は昭和四七年分の支払利子として一宮信用金庫浅井支店に対し被告主張の金額(八九三三円)を支払つていることが認められる。

ところで、原告は、その余にも別紙一五支払利子明細表記載のとおり本件係争各年分において支払つた支払利子があるので、これを経費として計上されるべきである旨主張するが、右主張を裏付けるに足る証拠は何ら存しないから、右主張は理由がない。

してみると本件係争各年分の支払利子は被告主張の金額のとおりであること明らかである。

(3) 建物減価償却費

原告が事業の用に供していた建物についての減価償却費が被告主張の額であることについて当事者間に争いがない。

(四)  以上によれば、原告の本件係争各年分における総所得金額は、昭和四七年分五〇七万四六一三円、昭和四八年分六七九万三三八六円、昭和四九年分四九九万八六二九円となるから、右各総所得金額の範囲内でなされた本件各更正処分及び右各更正処分を基になされた過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも適法である。

四  結論

以上の次第であるから、本件取消処分及び更正処分等の取消しを求める原告の本訴請求は、いずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 澤田経夫 裁判官 加登屋健治)

別紙 一 本件係争各年分の確定申告から審査裁決に至る経緯

〈省略〉

別紙 二 昭和四七年分課税処分表

〈省略〉

別紙 三 昭和四八年分課税処分表

〈省略〉

別紙 四 昭和四九年分課税処分表

〈省略〉

別紙 五 昭和四七年分営業所得金額計算表

〈省略〉

別紙 六 昭和四八年分営業所得金額計算表

〈省略〉

別紙 七 昭和四九年分営業所得金額計算表

〈省略〉

別紙 八 仕入金額明細表

〈省略〉

別紙 九 昭和四七年分仕入原価率及び算出所得率表

〈省略〉

別紙 一〇 昭和四八年分仕入原価率及び算出所得率表

〈省略〉

別紙 一一 昭和四九年分仕入原価率及び算出所得率表

〈省略〉

別紙 一二 建物減価償却費計算明細表

〈省略〉

(注) この建物については、原告の申告のとおり事業専用割合を五〇パーセントとしたものである。

別紙 一三 原告主張仕入金額明細表

〈省略〉

別紙 一四 原告主張雇人費明細表

〈省略〉

別紙 一五 原告主張支払利子明細表

〈省略〉

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